中国の温家宝首相が帰国したが、新聞・テレビ・雑誌にこれまで出ている論評をすべて踏まえた上で、小生のもうひとつの追加的「温家宝訪日」論。
中国は来年の北京五輪を「西側」がボイコットする事態を密かにまだ怖れている。
共産圏最初の五輪は1980年のモスクワ五輪だったが、直前の1979年12月27日にソ連軍はアフガニスタンに軍事侵攻する暴挙に出た。これに反体制活動家でノーベル平和賞物理学者、サハロフ博士が異議を唱えると、ブレジネフのクレムリンはサハロフ氏の身柄を拘束し、モスクワ東方400キロのゴーリキー市に国内流刑にしてしまった。国際的イベントである五輪を目前にした人権蹂躙劇に当然、西側からは激しいブーイングがわき起こり、ついに米欧日の西側はモスクワ五輪ボイコットに突き進んだ。高をくくったソ連の傲慢さが折角の五輪を「東側」だけの片肺飛行にしてしまった。
当時の冷戦真っ只中と今は時代背景はもちろん異なる。しかし、共産圏で二番目の五輪を開催する中国は、モスクワ五輪のこのボイコット劇を教訓にしてじっくり外交戦略を練り上げている。この場に及んで日本や米国にボイコットされでもしたら、それこそ国家威信は地に落ち、共産党政権の命運そのものにも深刻な影響が出る。クレムリンがモスクワ五輪直前に世界に露呈してしまったような強硬姿勢を温家宝は捨て、靖国や慰安婦など歴史問題で露骨な日本攻撃は避け、ジョギングやキャッチボールで精一杯の柔軟・微笑外交をふりまいた理由のひとつはまさにこれだった。
記者会見をしなかったのも、文字通り、政治犯や臓器売買といった数限りない人権問題で記者団に追及されたら(もっとも産経以外はそんな質問はしないだろうが)、モスクワ五輪の「アフガン」や「サハロフ」を想起させてしまう。3年後には上海万博も控えており、温家宝は日本訪問で絶対に予想外の外交的ボロを出すわけにはいかなかったのである。


by gymnasticsteam5
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