ロシアの日本漁船銃撃・拿捕事件の現場は北海道本島と至近距離、根室半島の納沙布岬から肉眼でも見えるほどの近さではなかったか。「密漁船への見せしめ」とも受け取れるような場所で死者を出す発砲事件を起こしたこと自体、今のロシアは尋常ではない。
産経新聞としての事件のコメントは今日17日の「主張(社説)」の「ソ連を彷彿させる蛮行だ」をお読みいただくとして、私も「ソ連」時代を彷彿させる事件だと感じたのは、これはスケールこそ違うが、やり方は大韓航空機撃墜事件と酷似していると確信したからだ。冷戦時代たけなわの1983年9月1日、樺太沖上空でソ連領空に迷い込んだ大韓航空の民間機を「スパイ機」とみなし、ソ連戦闘機が「何回か警告した後、反応がなかったのでミサイルで撃墜」して269人もの人命を一瞬に奪った。
今回のロシア国境警備艇も同じような主張をしている。「警告したが、反応がなかったので威嚇射撃した」と。つまり、自分の領域に踏み込んできた物は容赦なく無慈悲に排除する。事実、船長の証言はロシア側とは食い違い、「ロシア警備兵はゴムボートからいきなり撃ってきた」というではないか。大韓機事件では、ソ連は当初、撃墜の事実さえ隠蔽していた。ミサイルを発射したパイロットはのちに英雄視され、国連で拒否権を乱発して「ミスター・ニェット(ノー)」といわれたグロムイコ・ソ連外相は「西側はすぐ(事件のことは)忘れる」とうそぶいたものだ。今回、日本の外務省は珍しく腰が座った対応を示し、麻生外相は「関係者の処罰を要求する」とまで踏み込んだが、ロシアは絶対にそんなことはしない。多分、大韓機事件同様、事件を正当化し、英雄扱いで報いるだろう。今のロシアは「共産主義イデオロギーなきソ連」になってしまっている。
今回の銃撃事件を見る際、二つの原則的視点を見失うと本質は掴めない。第1は、何はともあれ、現場はあくまで日本固有の領土・領海であること。第2はプーチン政権のKGB的硬直思考を背景とする対日強硬姿勢とその雰囲気がそのまま事件現場の国境警備当局に反映されていることだ。プーチン大統領は自ら「南クリル(北方領土)の4島の主権はすべてロシア側にあり、これは国際法で確定している」と言い張っている。紛れもなく「領土問題など存在しない」とした歴代のソ連共産党政権と違わない。
小泉純一郎首相は「靖国」ではよくやった。しかし、こと対露外交に関する限り、終始無策であり、無作為だった。裏で支えるべき外務省もスキャンダルまみれのロシア課長はじめ、ロシアの対日攻勢に何ら為す術を知らず、後手後手に回ってきた。今は土俵を割る寸前まで押し切られようとしている体たらくだ。こんなロシアにした責任は、こんな日本の対露外交陣にあることも認識しておきたい。今回だけ勇ましい抗議をしたところで空しさが残るばかりだ。これまでの対露小泉外交のお粗末さのツケが、政権の最後の段階になって今、まさに北方領土の流血事件となって跳ね返ってきたとみるべきである。
ちなみに10月19日は、モスクワで鳩山一郎とブルガーニンが「日ソ共同宣言」に調印、国交を回復するとともに、平和条約締結後、まさに今回の事件が起きた歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すことで合意した50周年記念日である。節目の年にロシアは日露関係に汚点を残したことになる。
★参考に産経新聞17日「主張」を添付します。
根室湾中部漁協所属のカニかご漁船「第31吉進丸」(坂下登船長)が北方領土・歯舞群島の貝殻島付近の海域でロシア国境警備艇に銃撃、拿捕される事件が起きた。乗組員4人のうち1人が死亡し、漁船は国後島に連行された。わが国固有の領土海域でのソ連時代を彷彿とさせる蛮行だ。ロシア側に乗組員と船体の即時返還は無論、事件の全容説明、再発防止を強く求めたい。
北海道周辺で日本船がロシアの警備艇に銃撃された例は過去半世紀余りで約件にのぼるが、死者が出たのは1956年月以来だ。折から今年は日ソ共同宣言締結で国交回復が成ってから50周年であり、節目の年の日露関係にロシア側は汚点を残した。
麻生太郎外相が駐日ロシア大使館のガルージン臨時代理大使を呼び、関係者の処分などを要求したことは当然である。
事件の正確な場所、銃撃の詳細は不明だが、現場海域ではカニ漁は禁止されていたという。しかし百歩下がったにせよ、北方領土は現在、1993年の東京宣言で確認された通り、日露双方で4島の帰属について交渉中である。ロシア側は「再三の停船命令に従わなかったので威嚇射撃した」としているが、現実に死者を出す発砲は威嚇目的を超えたと言わざるをいない。
プーチン政権は現在、「4島の主権はすべてロシア側にあり、それは国際法で確定されている」と歴史をねじ曲げた一方的な言い分に終始している。
歴代ソ連政権同様の居丈高な立場に沿って4島海域の監視・警備態勢もここ数年、強化されたといわれていた。
今回の銃撃がロシア側のこうした高圧的な雰囲気の中での問答無用的な発砲だった可能性はないのか、ロシア側に厳正な調査を要求すべきだ。
北方領土海域は豊富な漁場として知られるが、ロシア側が課すさまざまな規制と取り締まりで根室の景気は長らく冷え込んでいる。漁船は危険を冒しての操業が増え、日本側も拿捕を避けるための措置をとってはいた。
プーチン大統領が議長を務めたサンクトペテルブルクでのサミット(主要国首脳会議)からちょうど1か月。今回の惨事はロシアがサミットの成員として国際事件でどこまで公正に対処できるかを占う試金石でもある。


by gymnasticsteam5
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